廃棄物処理法は、廃棄物の処理についての決まりや罰則が規定されている法です。
産業廃棄物の排出事業者や、処理事業者はこの法律に従ったうえで、廃棄物を処分する義務があるのです。
本記事では廃棄物処理法とは何か、誰が対象になるのかをご紹介します。
また、違反したときの罰則や注意点についても説明しているため、ぜひ参考にしてください。
目次
廃棄物処理法とは?
廃棄物処理法とは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」のことです。
これは廃棄物の排出を抑制しつつ、リサイクルや埋め立てなどの適切な方法で処理することを定めたものです。
廃棄物処理法において、廃棄物は「汚物または不要物で、固形状または液状のもの」と定義されています。
産業廃棄物の対象となるものは、主に次のような事業活動によって排出された廃棄物です。
あらゆる事業活動にともなった産業廃棄物の種類のほか、業種によって限定される廃棄物もあります。
業種などが限定される廃棄物の種類
- 紙くず
- 木くず
- 繊維くず
- 動植物性残さ
- 動物系固形不要物
- 動物のふん尿
- 動物の死体
たとえば製紙工場など、紙類を多く扱う業種であればあらゆる事業活動にともなう産業廃棄物とは別に、紙くずなども対象になります。
ほかにも輸入された上記のような廃油、プラスチックといった物も不要になった場合は産業廃棄物になるのです。
あらゆる事業活動にともなう産業廃棄物の種類
- 燃え殻
- 汚泥
- 廃油
- 廃アルカリ
- 廃プラスチック
- ゴムくず
- 金属くず
- ガラスくず
- コンクリートくず及び陶磁器くず
- 鉱さい
- がれき類
- ばいじん
- 上記の産業廃棄物を処分するために処理したもので、上記の産業廃棄物に該当しないもの
廃棄物は産業廃棄物・一般廃棄物の2つに分けられる
産業廃棄物とは法によって指定された20種類の廃棄物が該当しており、それ以外は一般廃棄物となります。
なお一般廃棄物の扱いになるのは、事業活動にともなって排出された中でも、事業所から出た紙くずなどは「事業系一般廃棄物」になります。
そして一般家庭から日常生活で出たゴミやし尿なども「一般廃棄物」として処理されるのです。
ただし、製紙工場や製紙会社の紙製品製造業によって、排出された紙くずは事業系一般廃棄物ではなく、「産業廃棄物」に該当します。
産業廃棄物と特別管理産業廃棄物の違い
産業廃棄物のうち、人または環境に害を与える恐れがあるものは通常の廃棄物としての処理ができません。
危険性があるとみなされる産業廃棄物は「特別管理産業廃棄物」として、通常とは違う処分方法や罰則の規定があるのです。
特別管理産業廃棄物になるものは、主に次の4つです。
- 燃焼性がある廃油(灯油、軽油、揮発油類)
- 腐食性の廃酸・廃アルカリ(ph値が2.0以下の廃酸・ph値が12.5以上の廃アルカリ)
- 感染性廃棄物(医療機関等で発生した感染のおそれがあるもの)
- 特定有害産業廃棄物(PCB廃棄物・廃水銀・廃石綿・有害金属など)
これらの特別管理産業廃棄物は、処理や運搬だけに限らず排出から処理までの間、注意して取り扱わないと人体や環境に害を及ぼすリスクがあります。
そのため、通常の産業廃棄物とは違った処理基準が設けられているのです。
廃棄物処理法が生まれた背景と目的
廃棄物処理法が生まれた背景は、1954年に制定された清掃法にまでさかのぼります。
当時不衛生な環境の結果、ハエや蚊が大量発生したうえ伝染病が深刻化していました。そこで汚物を衛生的に処理するため、行政が処理することに決まったのです。
高度成長期は廃油や汚泥などの産業廃棄物が増え、従来の清掃法だけでは不十分になり、1970年には全面的な改定へとつながりました。
ここから事業者が処理責任を持つようにと義務化が進み、1998年にはすべての産業廃棄物に電子マニフェストが制度化されたのです。
廃棄物処理法はたびたび改正されている
産業廃棄物を適正に処理することは、世界的な課題であり日本でもたびたび法改正が重ねられてきました。
2017年の法改正に、2020年の電子マニフェスト使用義務付けなど、廃棄物処理法は進化しているのです。
産業が進化すればまた新たな有害物質問題が、登場する可能性も十分に考えられます。そのため、常に廃棄物処理法の最新情報をもとに、環境を守るための正しい管理、運搬、処理が求められるのです。
廃棄物削減の対策に取り組む企業が増えている
廃棄物処理法は廃棄物をそのまま処分するのではなく、できるだけリサイクルすることを目的にしています。
たとえば製紙工場は汚泥の廃棄物が多くを占めており、ほかにも木くず、紙くず、廃プラスチックなどが排出されています。
これらの廃棄物は焼却処理によって工場のエネルギーに使われているほか、灰やセメント原料にも有効活用されているのです。
紙パルプ産業は2020年までに、廃棄物の最終処分量を13万トンまでの削減を目標として約6.9万トンまで削減に成功しました。
これは1990年時点で2,205万トンだった頃と比較するととても大きな進歩です。引き続き廃棄物削減の目標を掲げ、持続可能な社会のためにリサイクルに取り組んでいるのです。
廃棄物処理法の対象者
廃棄物処理法は主にごみや廃棄物を出す「排出事業者」と、そのごみや廃棄物を回収、運搬、処理を担当する「処理事業者」が対象です。
産業廃棄物を排出している排出事業者
産業廃棄物を排出している、工場やオフィスなどの企業の担当者が対象です。
この排出事業者は、廃棄物処理法によって排出した廃棄物を自分で処理するという義務が発生します。
ちなみに廃棄物の処理を業者へ委託することも可能ですが、処理責任は継続するため注意が必要です。
産業廃棄物の運搬・処理をする処理事業者
産業廃棄物の運搬から指定の方法での処理を、排出事業者自体ではなく専門業者に委託するケースもあります。
この場合、産業廃棄物自体を排出していない立場ですが、運搬や処理を担当することにより廃棄物処理法の罰則対象者になるのです。
廃棄物の種類や量に合わせた、適切な処理を行わないと処理事業者が罰せられるだけでなく、依頼した排出事業者もともに罰せられるリスクがあります。
産業廃棄物を輸出・輸入する処理事業者
産業廃棄物を国内ではなく、輸出先で処理を行う排出事業者もいます。
また、他国からの廃棄物を輸入して処理する事業者も、廃棄物処理法の対象となります。
廃棄物処理法を違反した場合の企業リスク
廃棄物処理法に違反した場合、そのレベルや常習性によって罰則が異なります。
それぞれの違反した場合の企業リスクについて、くわしくご説明します。
口頭指導と担当者名指導票の交付
厳格な罰則規定により、違反した人と法人のどちらにも罰則や措置命令が適用されます。
軽微な場合は、口頭指導と担当者名指導票の交付が求められます。
この「指導票」は法違反ではないものの、改善を要する対象であるとして発行する書面のことです。
文書通知と改善計画書の提出の義務
一定以上の場合の廃棄物処理法への違反が認められた場合は、都道府県などの自治体からの文書通知があります。
また、具体的な再発防止や改善のために、改善計画書の提出の義務が発生します。
事業停止や刑事罰の要求
上記の指導や改善計画書の提出などで改善されない場合は、最悪行政処分として措置命令が下されます。
命令が遵守されないとして、事業停止や取り消し処分になってしまうのです。それだけでなく法律違反として、刑事罰の要求があり管理責任者が罰せられてしまうのです。
廃棄物処理法の違反による罰則一覧
- 廃棄物の不法投棄:5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金もしくはその両方。法人には3億円以下の罰金が科されます。
- マニフェストの不交付・虚偽:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 契約書なしで廃棄物の処理を委託:3年以下の懲役または300万以下の罰金もしくはその両方
- 無許可業者への委託処理:5年以下の懲役または1000万円以下の罰金もしくはその両方
- 特別産業廃棄物管理責任者設置義務違反:30万円以下の罰金
廃棄物処理法の違反罰則は、たとえば無許可業者に対する処理委託であれば、5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金もしくはその両方が科せられます。
廃棄物処理法にもとづいた産業廃棄物の処理は、許可証の発行が必要です。
法人において従業員の誰かが廃棄物処理法に違反した場合は、違反者と法人の両方に罰則が科せられます。
なお不法投棄の場合は、さらに罰則が厳しくなっています。上述した廃棄物処理法の罰則のうえ、排出業者が不法投棄した際には法人にも罰金が科せられるのです。
また、委託業者が不法投棄を実施すると罰則だけでなく、以下のようにさまざまな負担を強いられる可能性があるのです。
- 委託業者と同様に懲役・罰金を科せられる
- 不法投棄された廃棄物の処理を求められる
- 社名が公表されてしまう
廃棄物処理法に関する注意点
廃棄物処理法はルールが複雑であり、同じ事業者でも廃棄物の種類によって規定が異なります。
廃棄物処理法の法令を守るために、チェックしたい注意点は次のとおりです。
廃棄物処理に関する指導の記録を残す
個人の自己判断での違反行為は、場合によって法人が罰せられない可能性がありますが、会社側が適切に産業廃棄物を処理するように働きかけていた証拠がなければ、罰せられる可能性があります。
そのため、従業員に対する法律指導をしていた証拠として、記録を議事録に残すことが大切です。
通常産業廃棄物と特別管理産業廃棄物を分ける
通常の産業廃棄物とは別に、危険性の高い特別管理産業廃棄物は、それぞれ処理方法や罰則が異なります。
基準は通常の産業廃棄物の場合、「産業廃棄物処理基準」にのっとった保管基準・運搬処分委託の基準を守る必要があります。
そして、特別管理産業廃棄物は「特別管理産業廃棄物処理基準」が用意されているため、該当する方の基準を守る義務があるのです。
見落としがちな違いですが、廃棄物処理法をもとに正しく管理、委託、処理を行いましょう。
多量排出事業者の義務に該当するか調べる
一定以上の産業廃棄物を排出している事業者は多量排出事業者に該当して、特別義務が発生します。
以下のいずれかの条件を満たす事業者は、多出排出事業者として電子マニフェストの使用義務をはじめ、計画の提出、報告義務があります。
- 前年度の産業廃棄物1000トン以上:産業廃棄物処理計画の提出義務・その実施状況の報告義務
- 前年度の特別管理産業廃棄物50トン以上:特別管理産業廃棄物処理計画の提出義務・その実施状況の報告義務
多量排出事業者の対象になるか否かは、原則事業場ごとに判定されます。
たとえ基準の数値を下回ったとしても、都道府県によっては行政指導を行うケースもあるのです。
該当する基準は、前々年度の特別管理産業廃棄物排出量をもとに、毎年度判断されます。
まとめ
廃棄物処理法は大量の廃棄物を安全に処分やリサイクルすることが目的です。
衛生を保つうえでも廃棄物処理法を守ることが、国民の健康維持に役立っているのです。
廃棄物処理法は廃棄物の種類や量によっても細かく規定があるため、事業者ごとで守るべき管理や処理方法を守り、住みよい環境を保っていきましょう。
排出物が多い企業の廃棄物の管理はとても大切であり、地球を守るうえで欠かせません。しかし電子マニフェストの発行や、全社の廃棄物や排出物情報を管理することは非常に複雑です。
管理者が及ばないところで廃棄物処理法に違反する状況になっている可能性も考えられるのです。
だからこそ廃棄物管理システムの導入がおすすめです。システム導入によって、複雑な廃棄物管理業務の作業効率化、しっかりとしたリスクマネジメントを実現できます。
排出事業者として、廃棄物の流れを見える化できるため廃棄物管理システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。